TikTokで勝手にアカウントが作られ続けるので、Claudeでカナダのprivacy法に則って通報をした
この記事は、Claude Opus 4.7とのやり取りを通じて解決した問題の顛末を、Opusに書かせたものです。ある程度のレビューはしていますが、情報の確実性はご自身で再検証することをおすすめします。
tl;dr
- 自分が使った覚えのない TikTok アカウントが、僕のメアドで2つ作られていた(@chezou2 と @nigtg679)
- TikTok はメアド認証なしでアカウント登録を許可している。これが構造的な同意の欠落
- TikTok サポート経由で1つ目を削除させたが、しばらくして別のアカウントが同じメアドで作成され再発
- カナダの規制機関2つに通報した
- CRTC(Spam Reporting Centre) に CASL 違反として通報
- OPC(Office of the Privacy Commissioner of Canada) に PIPEDA 違反として正式 complaint 提出
- OPC は2025年9月に既に TikTok 相手に joint investigation の Report of Findings (#2025-003) を出しており、僕の complaint はその文脈に乗る形になった
- カナダ居住者なら同様のケースで使える手順をまとめておく
何が起きたか
2025年11月頃から、[email protected] という送信元から「新しいデバイス(LGE LM-Q730)からログインがありました」というメールが届くようになりました。僕は LG の Android 端末を持っていません。そもそも TikTok のアカウントを作ったことがありません。
メールの宛先は僕のプライベートのGmailのメアド。メール内では @chezou2 というハンドルが言及されていて、僕のハンドル(@chezou ベースのもの)に近い名前で誰かがアカウントを作ったらしい、ということがわかりました。
ここで気付いた違和感: TikTok は、メアド認証なしでアカウントを作らせている。僕のメアドに「このメアドで TikTok アカウントを作ろうとしている人がいます、本人ですか?」という確認メールは一度も来ていない。にもかかわらずアカウントが成立している。
つまり、登録時のメアド入力に対する所有確認が一切行われていません。誰でも他人のメアドでアカウントを作ることができ、本来の所有者は通知メールを受け取り続ける構造になっている。
1回目の対応:3月にTikTokサポートへ
3月15日、TikTok の privacy report フォーム(https://www.tiktok.com/legal/report/privacy)から「Report a potential privacy violation」として通報しました。
返信は [email protected] から、テンプレ的な内容で「アカウントを削除したい場合は、ログインして設定画面から削除してください」というもの。そもそも自分のアカウントじゃないからログインできない、というのが問題の本質なのに、こちらが所有者であることを前提とした応答が来る。
返信して「これは僕のアカウントではない、誰かが僕のメアドで作ったものだ、削除してほしい、PIPEDA 適用の話だ」と書きました。すると次の返信で、こう言われた。
アカウント所有を確認するため、以下の情報を提供してください: 登録日、最初のログイン場所、登録時のデバイス、登録時の電話番号、リンクされた SNS アカウント…
これに答えられるわけがない。答えられないこと自体が、僕が所有者でない証拠です。再度返信して、「これらの情報を提供できないこと自体が、僕がアカウントを作っていない証拠だ。所有者であることを示せという要求は、non-user からの申し立てには構造的に応えられない」と書きました。あわせて「30日以内に解決しない場合は OPC に formal complaint を出す」と通告。
その後、@chezou2 は削除されました。
ところが再発
僕が TikTok への返信で「30日以内に解決しなければ OPC に formal complaint を出す」と通告していたのですが、その期限が過ぎた翌日の4月16日から、別の送信元([email protected]、Reply-To が [email protected])からメールが来るようになりました。今度は @nigtg679 という別のハンドル宛て。フランス語で「Mrs-mama💕✨️😘 t’a envoyé un message」みたいな、フランス語圏ユーザーからのメッセージ通知。
つまり、@chezou2 が削除された後、また別の誰かが僕のメアドでアカウントを作ったわけです。
ここで個人の問題を超えていることがはっきりしました。個別アカウントを削除しても、TikTok がメアド認証を実装しない限り、永遠に同じことが繰り返される。
ちなみに Reply-To にある [email protected] の edm は業界でいう “Electronic Direct Mail”、つまりマーケティングメール基盤の符牒。TikTok 自身がこれらの通知メールを marketing email infrastructure 内で扱っている、という小さな証拠でもあります。
規制当局ルートを2本
ここで「個別削除を申請し続ける」のは無限ループだと判断し、規制当局に持ち込むことにしました。カナダで使えるルートは2本あります。
CASL(Canada’s Anti-Spam Legislation) / CRTC
CASL は同意なき商業電子メッセージ(CEM)の送信を規制する法律。ポイントは:
- 違反に対して 罰金を課す権限 が CRTC にある
- TikTok からの通知メールは「TikTok プラットフォームへの利用を促進する」 = 商業活動の促進、と解釈できる
- transactional notification(アカウント所有者向けの取引通知)の例外は、僕が アカウント所有者ではない ので適用できない
通報先は CRTC Spam Reporting Centre([email protected])。実は メールに直接転送できる(オンラインフォームより楽)。コンテキスト説明メールを1通送り、添付として証拠メールを .eml 形式で5通同梱して送信しました。
注意点: SRC は個別の case outcome を complainant にフィードバックしません。だから「処理が終わったら教えて」という期待はできない。集積されたデータが enforcement target の特定に使われる、という形。
PIPEDA(Personal Information Protection and Electronic Documents Act) / OPC
PIPEDA は個人情報の収集・使用・開示に同意を求める法律。本件で問われるのは Schedule 1 の Principle 4.3(Consent)。
OPC への formal complaint は online form 経由。ここで 罠 がありました。
フォームの自動ロック問題
最初に試した時、フォーム内に「他の機関に同じ件で complaint を提出していますか?」という質問がありました。CRTC SRC に出しているので素直に「Yes」と答えたら、システムが自動的にセッションを終了させ、「他の手続きを完了させてからまた来てください」というメッセージで蹴られました。
しかし SRC は個別フィードバックを出さない(前述)ので、待っていても「終了」は永遠に来ない。これでは PIPEDA 申立てが事実上不可能になる。
Information Centre 経由でリカバリ
OPC には Information Centre があり、自由記述2,000文字以内で問い合わせができます。ここに「自動ロックされた、CASL と PIPEDA は対象としている問題が違う、どうしたらいいか」という旨を送ったところ、24時間以内に OPC の担当から書面で返信が来ました。
返信内容は要約すると:
- TikTok の privacy contact(TikTok Inc., Culver City)へ書面で連絡することを推奨
- それでも解決しない場合は、formal complaint を提出してよい
- フォームの「他機関への complaint」質問には 「No」と答え、free text section で状況を説明 してほしい
OPC自身がフォームのバグ的挙動を認識していて、回避方法を書面で指示してくれた、というわけです。
Formal complaint の構成
OPC オンラインフォームは Part A(組織への接触履歴)/ Part B(管轄判定)/ Part C(詳細・救済)の3部構成。Part C は4つの自由記述欄があり、それぞれ500〜2,500文字制限。
法的根拠の組み立てとしては:
- Principle 4.3 (Consent): 同意なしに個人情報(メアド)を収集・使用している
- Principle 4.3.2 (Meaningful consent): メアド認証がない以上、同意の存在を裏付ける機構がそもそも存在しない
- Reasonable expectations of a non-user: PIPEDA Findings #2012-002(Facebook が non-user のメアドを friend suggestion に使った件)が直接の precedent
要望としては:
- PIPEDA s.17.1 に基づく Compliance Agreement — メアド認証義務化、non-ownership-based の苦情プロセス整備
- 僕のメアドに紐づく全アカウントの削除
- 僕のメアドの blocklist 登録
- Public Report of Findings の発行(僕と同じ被害に遭っている人がいるはず)
添付資料は8ページ以内、25MB以内で、TikTok サポートとの3月の往復スレッド・OPC Information Centre からの返信・11月の security notification・4月の social notification サンプルを PDF 化して同梱しました。
既存の OPC × TikTok の文脈
書きながら気付いたのですが、OPC はすでに2025年9月に TikTok 相手の Report of Findings (#2025-003) を出しています。OPC、CAI(Quebec)、OIPC BC、OIPC AB の4機関 joint investigation で、主に未成年者からの同意取得とターゲティング広告の問題に焦点が当てられたもの。
僕のケースは未成年者問題ではなく、non-user の同意を得ない個人情報利用という別の角度ですが、「TikTok の同意取得の実務全般に問題がある」という OPC の認識と整合する話。投稿のタイミングとしては悪くない(OPC の興味の射程内に入りやすい)。
ちなみにこの Findings の中では、BC PIPA と PIPEDA の jurisdiction 関係についても整理されていて、cross-border data flow の場合は両者が “airtight seal” で適用される、という理屈が示されています。僕が BC 在住で TikTok(シンガポール法人)相手という構図でも、PIPEDA 適用に問題がない理由がここで補強されます。
カナダ居住者へのチェックリスト
同じような状況に遭遇した人向けに、手順を整理します。
ステップ0: 現状把握
- 不審なメールの送信元、送信日時、本文内容を保全する
- Gmail なら spam フォルダから救出してラベル付け(30日で自動削除されるので注意)
- 本文中に出てくる「自分のものではないアカウントハンドル」をメモ
ステップ1: 相手企業に書面で連絡
- 企業の privacy report channel から書面で連絡する(メール、フォーム、どちらでもよい)
- PIPEDA を引用する(信頼性が変わる)
- 「自分は所有者ではない」「メアド所有者として削除を要求する」を明確にする
- 30日以内の解決を促す
ステップ2: CRTC SRC に CASL 通報(マーケ性のあるメール)
- [email protected] に状況説明+証拠 .eml を添付して送る
- フォーム経由より、メール直接転送のほうがヘッダー情報が完全に保持されて証拠能力が高い
- 個別フィードバックは来ない前提
ステップ3: OPC に PIPEDA complaint
- まず Information Centre に状況を聞く(フォーム経由、2,000字以内)
- 24〜48時間で返信が来る
- 指示に従って formal complaint を提出
- 添付資料は8ページ以内、25MB以内
注意点
- OPC は現在処理遅延あり(数ヶ月)。すぐに結果は出ないと割り切る
- BC OIPC(州機関)にも管轄が及ぶ可能性があるが、cross-border の場合は PIPEDA 適用が筋。OPC が必要なら自動的に振り分ける
- OPC は order-making power を持たない(罰金を課したり強制執行したりはできない)。最強のツールは Compliance Agreement (s.17.1) で、これは Federal Court で強制執行可能。だから明示的に要求する価値がある
雑感
(ここは人間が書いています)
- 今回、Sonnet 4.6で調査を開始したのだが、正式にcomplaintする段になって念のため出たばかりのOpus 4.7で検証をさせたところ、だいぶ間違いや思い込みを正せたのでよかった
- たとえば「30日対応がなければ OPC に行ける」という Sonnet の主張は、実は法的根拠がなく Sonnet が圧力装置として勝手に設定した期限だった、というのを Opus に指摘された。これは戦術的には機能するものの、法的デッドラインと誤認すると別の判断ミスにつながるので、確認できてよかった。
- こういう法律系の調査を全部自力でやるの相当厳しいので、リファレンスはAIに取ってこさせて自分でも確認するのが良さそう
- こういった重めのトラブル解決を考えると、個人でLLM系のサービスを契約しないと辛いですね…
